1982年に元廣輝重先生が初代教授として研究室を立ち上げ、1988年に板倉隆夫教授が米国のNIHから遺伝子工学という新しい研究手法を鹿児島大学のなかでも先駆けて取り入れて、研究室は発展してきました。研究室の系譜を引き継ぎ、「ダイオキシン類で光るトランスジェニック・メダカ」の作出や「光るウナギの筋肉」など海洋生物の潜在的な能力の研究から、人の感覚に基づく「お魚のおいしさ」や「安全性」を科学しています。技術の発展に沿った力を身つけるために新しい分析手法も取り入れて、研究室のメンバーが一丸となって、これからも歩んでいきます。4年に進学される学生、大学院を希望する学内・他大学の方の研究室訪問も大歓迎です。
受験生の皆さんへ
● Youtubeで食品生命科学分野の紹介をしています。(5分)
https://youtu.be/yrFk2QE6gCw
●Youtubeによる2024年度オープンキャンパスでの研究室紹介です。(4分)
https://youtu.be/UU05cM9rwXw
●鹿児島大学水産学部 食品生命科学分野の研究案内です。
https://www.fish.kagoshima-u.ac.jp/aboutus/organization/mfs/
冷凍F2級貯蔵での生食用カンパチの品質保持効果
生鮮刺身用のマグロでは、色調が褐色化(メト化)するために商業的には-60℃の超低温流通が行われています。尾藤先生は1965年の日本水産学会誌で、マグロの冷凍貯蔵においては-35℃の貯蔵の有効性を報告しています。それから60年が経過し、冷凍(凍結)技術や水揚げ後の鮮度管理、品質評価法が発展してきました。
私たちの研究室では、カンパチの凍結後に-20℃、−30℃、−35℃、-75℃で3ヶ月貯蔵しました。その結果、-20℃では血合肉は褐色化していましたが、F2級では、褐色度指数とメト化率相当からみて-75℃貯蔵に遜色のない色調が保持されていることを確認しました。解凍後、少なくとも5時間は色の変化は感じられず、官能評価でも-75℃同様の高い評価が得られ、美味しくいただきました。(現在ブリで実施しており、共同研究は受け付け終了しました)
養殖ブリの解凍後処理による褐変化抑制
養殖ブリの血合肉は、冷解凍により数時間で褐変化(メト化)することが知られています。褐変化対策として、
①メト化率に代わる血合肉の適切な色調評価法の確立
L,a,b測色値からの褐色度指数、色相角差
②解凍後処理による褐変化抑制法の検討
③F2級温度による凍結貯蔵中の褐変化抑制の3点から研究を進めています。
左の写真は、冷解凍による褐変のメカニズムを明らかにし、その原因を考慮して解凍後処理を行い、褐変を抑制した一例になります。現在、企業の協力の下で研究を進めています。
食品工場のクリーン化
~ 空気環境の改善と安定した品質管理を目指して ~
地方の食品産業には、従業者40名程度の中小企業が多く存在し、地域経済を支えています。東京オリンピックを契機にわが国においてもHACCPが義務化され、さらには食品ロス削減法により、今まで以上に食品の安全性に取り組む必要があります。
今回の研究では、鹿児島の特産品であるさつま揚げ工場において、賞味期限内でのより高い安全性と今後の賞味期限の延長を考慮して、2次汚染に大きな影響を及ぼす空気環境について検討しました。
包装環境の空気清浄は、従来、中小企業にとってフィルターが高価なこともあり高嶺の花でしたが、コロナ対策もあり、優れたフィルターを備えた空気清浄機を導入することができ、一定の効果を得ることができました。(R2~R4共同研究)
(研究業績に詳細なデータを掲載した論文や雑誌を紹介しています)
水産物のMA貯蔵による品質管理
お刺身の美味しさには、いろんな品質が関わっています。安全で美味しくお刺身を食べるために、貯蔵の際に脱酸素剤を封入して酸素を除去することで、色調や風味の変化や細菌数の増加を抑制し、良好な品質管理が可能となることを報告(2014) しました。左の写真をみると、カンパチの血合肉の色調が酸素を除去することで、1週間貯蔵しても保持されていることがわかります。
脱酸素剤を封入したMA貯蔵では色や臭いなどの劣化、細菌の増殖が抑えられるために、例えば、カンパチなどでは刺身の優れた指標といわれるK値を指標にして品質管理ができます。(左図:スマホで鮮度予測)。
現在、カンパチ、マダイ、カツオ、マグロ、サーモンなどで、各魚種で管理する品質指標をもとで消費期限を設定(論文発表2023)しました。今まで難しかったコンビニでのお刺身の取扱いに適用することで、高齢者に優しい販売を提案しています。一部は、企業の共同研究で得られた成果がもとになっています。
※鹿児島大学シーズ集
https://seeds.krcc.kagoshima-u.ac.jp/seeds_info/pdf/21-Fd-kaminishi-fish.pdf
https://seeds.krcc.kagoshima-u.ac.jp/seeds_info/pdf/9-Fd-kaminishi-fsh.pdf
かつお節製造におけるヒスタミン対策について
化学性食中毒の3/4が、赤身魚やカジキなどの魚を食べることによって起こるヒスタミン食中毒です。魚介類におけるヒスタミンの生成には細菌が関与していますが、その種類はモルガン菌やフォトバクテリウム属をはじめ、多数の細菌が報告されています。
ヒスタミン対策として枕崎水産加工協同組合のHACCPマニュアルがありますが、私たちの研究室ではマニュアルを遵守すれば、ヒスタミンの発生はみられないことを確認しました。
また、今日では原料魚となるカツオの入手が多様化(漁獲法や貯蔵法)・多角化(入手先の分散)してきています。ヒスタミンは、赤身魚を扱う際に既に原料魚に蓄積されている場合に対して対策が要求されており、いわゆる「原料HACCP」として問題となっています。私たちは原料のチェックシートを作成し、このチェックシートが有効であるかを確認しています。
さらには、それに関わる細菌種に対しては、写真のように一次スクリーニング(推定試験)からヒスタミン生成能を確認(確定試験)、現在、16S rDNAあるいはヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子の分析による細菌種の同定(完全試験)までを行うための分析法に取り組んでいます。
(この事業は、鹿児島県の補助で実施されました)
生鮮刺身の色変わり特性と官能評価
お刺身の測色値(L* a* b*)から色差などを分析して、さらに貯蔵中の刺身の彩度や色相などの数値変化を職人の感覚による判断と比べてみました。
ブリやカンパチの血合肉では色相の変化(赤色から褐色・メト化)が、マグロでは彩度(赤色の鮮やかさ)の変化をともなうものに分けて数的処理をしました。
左図は、養殖ブリの血合肉の色相差と人の知覚(官能評価)について評語としてまとめたものです。いままでは、見た目からの用語にどの程度の差があるかを知ることはできませんでした。また、色調の品質基準値を設けることで、ブリ血合肉の褐変を数値として評価できるようになりました。
※ 上西由翁,田住瑶子,舟橋亞希,安樂和彦 (2019): 生鮮刺身の色変わり特性と官能評価、鹿児島大学水産学部紀要, Vol. 68, 1-7 (http://hdl.handle.net/10232/00030918)
ウナギの緑色蛍光タンパク質に関する研究
鹿児島大学水産学部の林教授は、ウナギの筋肉に他の魚類にはない「緑色蛍光タンパク質(GFP)」が存在することを発見しました。その後、このタンパク質は理化学研究所の熊谷らにより、「血液中のビリルビン」をリガンドとして蛍光を発することが明らかとなりました。
私たちの研究室の博士課程に所属していた舟橋は、世界の主要なウナギGFPを遺伝子組換え技術を使い、6種類のウナギGFPの特性を発表しました。現在、この遺伝子の誘導発現メカニズムや生物学的な意義について調べています。
(上:シラスウナギの緑色蛍光、下:成魚腹腔部)
A. Funahashi, T. Itakura, A. A. I. Hassanin, M. Komatsu, S. Hayashi, Y. Kaminishi. (2017)
Ubiquitous distribution of fluorescent protein in muscles of four species and two subspecies of eel (genus Anguilla).
(ウナギ属4種2亜種の筋肉中における新奇緑色蛍光タンパク質の分布について)
Journal of Genetics, 96(1), 127-133.